外国会社・外国人の表記と不動産登記の公示

アメリカ合衆国ワシントン州にあるデラウェア法を設立準拠法とする某LLCは日本全国に多数の不動産を所有して不動産登記をしています。なお日本では外国会社の登記はされていません。ワシントン州で登記されている商号を仮にFutures Properties LLCとします。

日本の不動産登記では日本に外国会社の登記がされていて、かつその登記簿にアルファベットで商号が登記されている場合を除き、本来その所有者名にアルファベットは使用できないはずです。それがなぜだか最初の司法書士が間違ったのか、それとも法務局が気づかなかったのか、その理由は知りませんが、本州の某県の不動産登記簿の甲区にFutures Properties LLCと登記されています。また違う県の不動産登記は別の司法書士が担当したのか、フューチャーズ・プロパティーズ・エルエルシーと登記されています。九州の某県では、またまた違う司法書士が担当したのかフューチャーズプロパティーズエルエルシーと登記されています。その後、またまた違う県では、最初に登記された登記簿を先例として持ち出したのか、アルファベットで登記されていました。(どうしてアルファベットで登記できるのでしょう??)(アルファベットでの登記不可の根拠を追記:平成14年10月29日民二第2551号依命通知「登記名義人等が外国人又は外国法人である場合、登記名義人等の住所が外国である場合等についての従来の取り扱いを変更するものではありませんので念のため申し上げます」)

少しそれます。「株式会社」は株式会社の商号にしか使用不可と理解していますが(会社法第6条)、以前に外国の会社の〇〇Ltd.を〇〇株式会社として訳されて登記されているのを見たことがあります。もうこうなると同じ会社なのかどうか判断がつきません。

中華圏の会社の場合はどうでしょうか。例えば香港の登記所に登記されている香港の会社は、商号を英語表記と漢字表記の両方で登記している場合があります。この場合、表音を合わせているわけではなく表意で合わせていることが多いかと思います。日本でも有名なスイーツのお店である糖朝を例にとると、漢字では糖朝有限公司、英語ではThe Sweet Dynasty Company Limitedとして登記されています。漢字表記により日本で不動産登記の申請をする場合は、糖朝有限公司となります。漢字で申請しなさい、とはなっていないのでこれをカタカナ表記にするとタンツァオヨゥシェンゴンスー?でしょうか。一方で英語表記の会社名をカタカナ表記する場合は、ザ・スイート・ダイナスティ・カンパニー・リミテッドあたりでしょうか。日本では「トウチョウ」として有名な糖朝ですが糖朝有限公司とタンツァオヨゥシェンゴンスーとザ・スイート・ダイナスティ・カンパニー・リミテッドがそれぞれ所有者として登記されている不動産登記事項証明書を見て同じ会社だと気づく人は少ないと思います。

日本で外国会社としてその商号をアルファベットで登記している場合は不動産登記の所有者としてもアルファベット表記で登記申請できますが、不動産登記後に外国会社を廃止した場合はどうなるのでしょうか?所有権登記名義人表示変更登記を申請するのでしょうか?何も変更されていないですよね。錯誤も無いですし。

最初のアメリカの会社の話に戻ります。次は本店所在地の記載方法です。Futures Properties LLC は12th St W 400 Suite 500, Olympia, WA 98504 USAにPrincipal Office (本店)を置いています。

この日本語表記もまたまた多種多様です。12thは12番街?それともトウェルフス・ストリート?Wはアメリカの住所ではWestの省略系(やっかいなことに免許証等でも省略形で記載されています。この点日本の免許証も一丁目2番3-400号は省略形で1-2-3-400とされています)ですが、これもそのままダブリュになっていたり、ウエストとなっていたり。スイートはオフィスビル等の部屋番号の前に来る、日本語でいるところと〇〇号のようなものです。これもスイートになっていたり、スイーツ(お菓子??)になっていたり、〇〇号に訳されていたり。オリンピア部分も日本語的にオリンピア市になっていたり、オリンピアになっていたり。これらの本店所在地の表記と先の商号の表記を合わせると、同じ一つの会社であるにもかかわらず、ざっとみただけでも10通りぐらいの表記になっていました。これだと共担の設定もできないですね。

中華圏の個人の方の表記が特に今後問題になってくるのでは、と危惧しています。同じ漢字でも本土と香港、台湾では発音が違うのでカタカナに直すときにパターンが出てきますし、カタカナ表記の問題として表記の揺れも生じます。そして漢字で登記するバージョンとカタカナで登記するバージョンです。それから中国語のXiaoさんとShaoさんは別表記ですが、日本語のカタカナにすると両方とも同じになります。

外国人の場合でも住民登録はアルファベットでされています。印鑑証明書もアルファベットの氏名です。本人確認をする際に使用するパスポートと照合できるのに、なぜ日本の登記制度は頑なにアルファベット表記を認めないのでしょう。これでは登記識別情報をもらっても、パスポート上の表記と照合することさえできません。

グローバル時代。今後の不動産登記の公示を考えると早く指針(例えば、アルファベットを可能にする、漢字圏の場合は原則や使用する優先順位も併せて定めるなど)を出して統一した方法を用いないと大変なことになると思います。オーストラリアの会社登記では役員の登記とともにパスポート番号等も登記されています。これらの情報を公示するかどうかは別にしても、添付書類として求めたり、次の登記の際には確認できるようにするなど何らかの方策をとる段階に来ているのではないか、と思います。

 

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